2018年度 第1回研究会  → 終了しました

■開催日時:2018年6月17日(日)
■会場:北海道大学 人文・社会科学総合教育研究棟(W棟) W309号室(札幌市北区北10条西7丁目)

■研究発表(13:30~16:30)
(1)孫嘉寧さん(関西学院大学大学院社会学研究科博士後期課程)
「桃太郎昔話の地域的展開と伝承の語り直し―岡山吉備津を中心に―」(タイトル変更)
 鳴釜神事の由来が語られる桃太郎昔話の一モデルという岡山吉備津地域の温羅伝説の文献記録及び現在の神事を紹介し、鬼・温羅は製鉄技術を持つ渡来統治者で、桃太郎・吉備津彦は天皇によって派遣されたとされる温羅伝説の解釈には渡来集団と在地集団と中央政権など重層な対立関係やねじれが見られることを指摘する。「もの」を介した語りに注目して、ローカル歴史が不断に語り直され、今日の観光地化という文脈と関連して地域アイデンティティを再構築する過程を考察する。

(2)佐崎愛さん(東北大学大学院文学研究科博士後期課程)
「日本ハリストス正教会の死者をめぐる実践―中新田地区における「木製十字架」を事例として―」
 日本ハリストス正教会では、1861年にロシアから日本に受容される中で、日本の供養文化と神による記憶を願う「死者の記憶」概念(正教会の教義概念)が交錯することで、日本独自の実践を生み出してきた。本研究では、それらの実践の中でも特に宮城県加美郡にある中新田ハリストス正教会で現在も実施されている、位牌代わりの「木製十字架」を事例とし、いかにこの新しい実践がなされているのかについて検討したい。

(3)インガ・ボレイコさん(北海道大学大学院文学研究科博士後期課程)
「集合的記憶に関する文化人類学的研究―二風谷におけるニール・G・マンローをめぐる記憶の事例を通して―」
 人は自ら経験したことのない出来事に対して記憶を持つことができるだろうか。今回、集合的記憶という概念を用い、このような可能性を検討する。具体的に、1942年まで北海道の二風谷に暮らしていたニール・G・マンローをめぐる記憶に着目する。医者や研究者として活躍していたマンローは二風谷の多くのアイヌと親密な関係を保っていた。現在でも、彼を偲ぶイベントやそれぞれの人の語りを通して想起され続けられている。その記憶を中心に取り上げ、マンローをめぐる集合的記憶の現在における役割について論じる。

(4)福島令佳さん(北海道大学大学院文学研究科博士後期課程)
「就労継続支援の現場におけるケアの実践に関する福祉人類学的研究―農福連携自然栽培パーティの取り組み事例―」
 農業分野の深刻な人手不足の解消と福祉分野の“自立”を促進する就労継続支援という政策動向は農福連携事業という形で相互のニーズを満たすことを目的として展開している。この事業において近年、異彩を放つのが、農福連携自然栽培パーティの取り組みである。そこにみられるのは、自然栽培ならではの栽培植物との向き合い方や障がいのある利用者に合わせた“農作業”の創造である。今回の調査結果から、その営みの中に“農作業”という言葉では表現しきれない“ケア”ともいうべき栽培植物と利用者の交流があることが分析された。本報告では、この事例を通じて、”自然栽培“を行う就労継続支援の現場におけるケアの実践の記述からその可能性を論じる。

□懇親会(17:30~)
■会場:総合博物館N127室