2016年8月

北海道民族学会の役割

会長 岩崎まさみ

 Japanese Review of Cultural Anthropology Vol.16で、日本と関わりの深い海外の研究者たちが、「国際化する日本の文化人類学」というテーマで意見を交わしています。多くは定番の意見であり、日本人研究者がいかに世界の先端研究から取り残されているか、またその理由は日本人研究者の語学不足にあるなど、すべてどこかで聞いたことがあるような意見です。しかしその中で気になる一文がありました。それはこのような内容です:「アメリカでは大学のブックストアでない限り、人類学関連の本を手に入れることができない。しかし日本では一般書の中に人類学関連の研究成果本があり、しかも会社帰りのサラリーマンのような風貌の人たちがそれらの本を立ち読みしている」。
 もちろん、その背景には出版業界の事情や、研究者の業績に対する評価基準の違いなどがあります。しかし、一般的に日本では文化や民族に関する興味が高いのも事実です。文化や民族に関する本が街の本屋に並んでいるばかりでなく、地方で開催される文化・民族をテーマとするシンポジウムには、一般の人々の参加もあります。この現象は北海道民族学会においても同様であり、研究会には特定の研究報告やテーマ全体に興味のある方々の参加をいただいています。また北海道民族学会では会員であれば、だれもが日頃の研究成果を発表する機会があります。
 過度に専門化した文化人類学が一般社会から分離してしまっているという問題を抱える海外の多くの国に比較して、日本の現状はかなり健全であると言えます。研究成果が還元されるべき一般社会との有機的な繋がりが保たれているからです。そのように考えると、地方の学会として成長してきた北海道民族学会にとって、今後、果たすべき役割の一つが見えてくるような気がします。それは一般社会との接点を充実させることにより、国際化する日本の学術研究を下支えするということではないでしょうか。